91年よりミラノ在住のC.Tさんのコラムです。
ミラノに住むようになってかなりの年月がたつが、今年ほど寒くて、雪が多い冬ははじめてだった。雪化粧の古いミラノの町並み、木々を覆う細かな雪、宙をまう柔らかなボタン雪、すべてが音をなくしてしまったような錯覚を楽しんだのもつかの間、雪に慣れていないミラノは交通マヒをはじめ、さまざまな問題に直面した。しかし、そんな中でこの冬一番驚いたのは”肺炎”だったかもしれない。毎年この時期になると必ずやってくる数々のインフルエンザ、今年はやれ、香港型だの、オーストラリア型と連日、インフルエンザに関する報道が伝えられるが、異常な寒さと湿気が原因なのか、かなりの多くの人がお年寄りでも子供でもないのに今年は肺炎にかかった。私の周りにも3人が40度以上の熱に連日うなされ、10日以上入院することになったのだ。熱が少し下がるのを待ってお見舞いに行く。診察を待つ人であふれかえる外来を抜けて、大きなエレベータと病院独特のにおいがする殺風景な白い廊下を進み、めざす病棟にたどり着く。お見舞いができる時間は一応決められているものの、そのあたりの取り締まりは日本よりかなりルーズ。おしゃべり好きのイタリア人だからなのか、少し元気になった人は 自分のベッドでゆっくりしていないので、見つけ出すのに一苦労。違う病室に行って話し込んだり、売店まで散歩したりで、ベッドにいないことがほとんどだ。詰め所のそばにある談話室は、まるで社交の中心であるかのようにいつも大変なにぎわいようだった。
それにしても、ここ数年でイタリアの病院は変わってしまった。病院によって多少の差はあるものの、イタリア人の看護士さんがほとんどいなくなった。この冬、3人の友達を訪ねて5回病院に行ったが、見かけた看護士さんの80%が、東欧、インドなど明らかに外国からの人たちだった。入院している友達らが口をそろえて言う。「彼女たちはやさしいし、プロなんだろうけど、なんとなく不安なんだよね。」「偏見なのかもしれないけど、衛生に関する観念が違うなって感じることがある。」「本当にこちらが話していることが全部伝わっているのか、分からないことがある。」「食事の質も落ちたし、たとえばパスタがゆですぎだといっても、そのことを分かってもらえない。」病院で唯一の楽しみといってもいい食事への不満は文化摩擦に繋がっていく。今や数少なくなったイタリア人の看護士の友人も、職場が変わってしまったことを心配する人の一人だ。EUの拡大で東欧からの出稼ぎ看護士がここ数年、ものすごい勢いで増えたのだという。看護士のようにきつくてつらい仕事は今のイタリアの若い人には流行らない。病院側も外国人を雇ったほうが安くつくので 便利だというわけだ。一応、資格を持っている人が採用されているはずだが、資格試験の水準や、許可書の配布に不透明なところが多いらしく、彼女自身が戸惑っているという。
一方で失業の問題を抱えながら、仕事を選ぶイタリア人。コスト面で移民の採用に走る雇用側。人道的な立場からその規制に介入する教会勢力と キリスト教徒票を前に改革を進められない政治家たち。そしてその一方で加速する人口の老齢化と経済危機.....イタリアという国が肺炎にかかっている.....ところで、今回肺炎にかかった友人のひとりは52歳の女性だったが、彼女を訪ねておどろいた。5人部屋に入れられた彼女と同室の人は76歳、83歳、94歳、104歳だった。シニョーラ ジョーバネ(Ms. Youngの意味)と呼ばれた彼女は苦笑しながら、彼女たちの関心ごとについて聞かせてくれた。94歳の彼女は、ペディキュアをするのが大好き。ただ、検査のたびにとりなさいと看護師さんから叱られている。83歳と76歳は、少しステキな男性医師の回診のある日はパジャマを着替える。そして104歳の彼女は、2日に一度のシャンプーを決して欠かせないのだそうだ。肺炎にかかったイタリアが、それでも輝きを失わない、そんなしたたかさを垣間見た気がする.
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コメント
こんにちは。
いつも楽しく拝見させて頂いてます。商品のことは勿論なのですが、時々入るイタリアの生活や経済のコメントがとても新鮮で、私など憧れだけで向こうで生活なんて考えられない俗人にとって「なるほどなあ、、」て勉強させてもらってうれしいです。
先日「オーラの泉」に中村えりこさんが出ていらしてて、パリでの生活の華やかさの裏の現実を語られていましたが、いかに日本が住みやすくて快適なのかを痛感しました。やはり旅行で行くのと、生活するのとは大違い。今我々が住む日本では盛んに、老後は海外でとか、やれ政治問題だの経済がどうだの騒がれてますが、ちょっと視点を変えて現実を考えてみるのも必要なのかなと思ってしまいました。
これからも是非イタリアや海外の生ニュースよろしくお願いしますね。
投稿: Hiyocchi | 2009年2月25日 (水) 12時25分
そうなんです、できるだけ商品以外の情報も、と心がけております。よくある、「只今イタリア出張してます!現地の様子は、、、」云々はちょっと避けて、なんて偉そうですが、旬のファッション情報は東京で充分とれますからね。
これからも「現地ニュース」頑張って書いていきますので宜しくお願い致します。こういうコメント頂くと本当に嬉しいんですよ!!
そう、来週はいよいよ選び抜いた、Fabiana Filippi,C.P.Company,Rosso35 到着します。
お時間が許す限りどうぞお早めにご覧くださいませ。
ありがとうございました!
投稿: コーネリアスです! | 2009年2月26日 (木) 13時02分